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1 釣と船乗り
かってオーストラリアで長いストライキに遭遇し、一ヶ月以上の長期錨泊を余儀なくされた事が度々有りました。 時には航海ローテーションの不運で2航海続けて長期停泊などと言う船も有りました。停泊していても船員にはメンテナンス作業はエンドレスに有ります。しかし航海中と異なるのは、夜間航海当直が無くなり、 すべて昼間作業になる為、夜間は停泊当直員一名以外は全員休み時間になるのは一般陸上サラリーマンと一緒の労働時間帯になります。 上陸はできない虜囚のような船内生活では、自由時間は釣り、麻雀、或いはVTR鑑賞か読書と言ったところでしょう。 船内の早い夕食(一般に17時です)が済めば翌朝までの時間は自由時間です。 退屈者達はボツボツと遥か陸の夕景を眺めながら誰となく一人二人と釣道具を垂らし始めます。少しづつでも釣れ始めると何時の間にか釣人口は増え、麻雀組が居住区内に残っている程度になります。 こうして夜半まで、釣が好きだろうと否とにかかわらづ殆ど全員がデッキ上に集まりコミュニケーションの場に化します。 こんな釣り場で集めた「独断と偏見」の釣り人との想い出データを紹介いたします。
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2 錨地の選定
釣好きの乗組員が沢山乗船している船では停泊錨地選定に相当気を遣います。
特に停泊待機状態が長くなる事が予想されているときには安全な錨地を選定する事は勿論ですが、加えて釣り場の良否を慎重に選ぶ必要が有ります。 2,3日の停泊ならば、たとえ一匹の漁獲が無くてもそれは「船に魚が付かないうち」に船が移動してしまった事に言い逃れる事はできます。
しかし来る日も来る日も漁獲が無いと、釣氏達(あえて漁師とは言いません)から船長を見る目が段々と険しくなってきます。 「今回は錨地の選定を誤ったようですな」 「折角のうまい酒が味わえませんな〜」 色々と耳の痛いお言葉を聞かされます。 「船舶運用学」の錨地選定の項目には「魚がよく釣れる場所を選ぶ」と言う項目を勉強した記憶は有りません。 魚の釣れない停泊はみんな船長の責任なのです。
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3 酒と肴と不健康
釣りを趣味とする船員は沢山乗船しています。
しかし日本の港では停泊中に、殆ど釣りを楽しんでいる人は居りません。上陸に忙しいためです。 外国の港、特にオーストラリアの諸港では錨泊待機中は皆さん殆ど全員が釣り道具を垂らします。時折大物が釣れるので、釣り趣味の無い人でも結構楽しんで時間を潰しています。 中には「デッキ釣り」と称する輩が徘徊しており、適当に漁獲がある人のところから「上手な口述を餌」に釣り上げて行きます。 そして勝手に料理をして最も新鮮な酒の肴にして楽しんでいるのも船乗りならではの醍醐味でしょうか。新鮮な肴で味わう酒は大抵がウイスキーか外国ビール。こんな時に「日本酒が有ればなー」と思うのはいつものこと。 たまに何処かから出てくる日本酒の味は何とも言えない有り難い存在です。そして飲みすぎてしまうのも船乗りの習慣です。
重い頭を抱えて仕事に就く翌朝も、夕方になれば元気一杯に体力復活。夕食後の適当な時間漁獲を得た後は昨日と同じパターンの繰り返し。 目前に有るアルコールが無くなるまで粘りつづけるのが船乗りの悪いところでこれが酒に強くなる基かもしれません。 停泊すると新鮮な肴が得られるほど頭の重い朝を迎える日が続きます。
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釣自慢、道具自慢
釣好きにも夫々の好みが有るようです。 船乗稼業は船内で生活する最小限の荷物を持って乗船しています。そんな中でも釣好きで流行に凝った人は最新の釣道具を沢山携え乗船してきます。
身の回り荷物整理が終われば自慢の道具を全部広げて先ず眺めて楽しんでいます。キャビンのドアーは開放しPassageを通る人を呼び込んで、ひとくされ自慢の能書きを聞かせてくれます。話のトーンが合えばお茶も出てくるし、新鮮なお茶菓子もお相伴に預かれます。 さて釣を楽しめる停泊がやってくると自慢のピカピカ道具を持って釣場所を求めて釣り始めますが余り長続きはいたしません。
理由は解りませんが、大事な自慢の道具が海水で濡れるからでしょう。 漁獲も殆ど無いままに道具は丁寧に真水で洗浄し、きれいに乾燥させて格納します。航海中の大物釣り談義はどうも結果として現れません。
一方、以前は本当の漁師経験者ではと思われる人がたいてい1人2人は乗船しています。 釣道具は航海中にコツコツと入念な手作りで、決して流行の品物にはこだわりません。停泊中の釣に適した潮時間になっても決して慌てることは有りません。 風の具合、潮の流れ、船の向きなどが適当でないと判断している時は誰が釣り上げていようが無頓着です。やおら釣名人が出てくると、今までに誰もが釣り上げていないような大物をいきなり釣り上げてしまいます。 時間を無駄にしないと言うか、じっくり釣り糸を持って待つ時間を少なくしています。
釣道具自慢の釣氏と、漁労長といわれる程の釣氏とは趣味の違いとは言えその差は余りにも大きく感じられます。
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5 釣り人へのサービス
釣氏たちの漁獲を待って新鮮な料理を作る裏方名人は結構そろっています。 その人たちは殆ど「賄い部」の人たちでは有りません。 甲板部であり、機関部の人たちです。荒っぽい料理では有るけれど、ネタの新鮮さがすべてをカバーしてくれます。こうして毎晩新鮮な肴で酒盛りができるのも商船乗りの役得かもしれません。
かって、ブリスベンの岸壁で、積荷待ちで長期待機していたときの事です。 誰かから魚を釣らない人は「餌を捕ってきてもらえませんか」と言う話が持ち上がったものです。 一杯飲んでいる関係か、簡単に引きうけたのは言うまでも有りません。
まだ夜も明けきらない翌日早朝、ボースンがやってきて起床を掛けられました。「ボヤー」とする頭を整理していると、長靴を履いて用意してきてくれとの催促。取りあえず言われた通りに準備して行くとボースンは小さなバケツとスコップを準備しています。 何事かを問いただすと、これから「イソメ」を堀りに行くとのことです。 暗がりをトコトコと歩くこと数十分、泥砂交じりの海岸で約2時間、泥まみれになって「イソメ」掘りに頑張ったことは言うまでも有りません。 その日から毎日夜中の干潮時に合わせ毎晩泥まみれになっての餌掘りが続きました。 お蔭様でおいしい肴は遠慮なく戴けたし、遅くまで深酒をしないだけ健康な日々が続きました。
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6 フグを食べる日本人
オーストラリア西岸にPort Dampierと言う鉄鉱石を積出す港が有ります。 常時大型船が入港しており、鉄鉱石積出しの為に大抵数日の待機停泊が有りました。
この港は時期によって大きな「ふぐ」が釣れるので有名でした。通常「なごやふぐ」とか呼んでいて、毒性も少なく「てっさ」「てっちり」など結構贅沢に味わい楽しみました。調理は大抵一人二人上手な人が存在し、手際良く裁き、安心して食べたものです。(中には不安そうな人もいましたが専ら傍観者でした)
さて、台湾中国人乗組員と混乗船になってからは彼らには「ふぐ」を食べる習慣が無いらしく立派な「フグ」を釣り上げても投棄してしまいます。 ある時彼らの一人に、「フグ」が釣れたらくれるように頼んでおいたのですが、その後さっぱり釣れない様でとうとう一匹も貰えませんでした。 数日経った航海中のある日に、停泊中の釣成果に付いて話をしていたとき、「フグ」が随分釣れたらしい事が解りました。 「○×に釣れたらくれるように頼んでおいたのにとうとう貰えなかった」と言ったところ、 「日本人はフグを食べるので絶対にやったらいかん」と言って一晩中見張っていたと言う。 日本人の無鉄砲には大変気を遣ってくれたようでした。
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菜食主義者と釣り人
台湾中国人乗組員の中に一人の「菜食主義者」が乗船していました。 彼は、肉、魚類は一切口にしません。三度の食事の中に出てくる肉、魚は一切手を付けません。 炒飯の中の小片の肉でさえ丁寧に拾っていました。それ以上に小片のMixには一切手を付けませんでした。
このような徹底した人なので釣り上げた魚を食べるわけが有りません。 そんな訳なので釣り人達が釣り上げた魚は隠しておかないと皆捨てられてしまいます。この時ばかりは自分が食べないと言うだけでなく、他人が食べるのも気に入らないようでした。 釣り人達は彼がデッキに出てくると一斉に漁獲物を隠していました。 不思議に思ったのは、折角釣れた魚を海に捨てられても、捨てられた人が決して怒らない事。そして仲間同士の不仲が決してなかった事です。
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比船員気質
フィリッピン船員は海洋民族なので大の釣好き、魚好きでした。 停泊するや否や、貧弱な釣道具を持ち出して結構辛抱強く釣り糸を垂れ始めます。 日本人のように高級な釣道具でなくても釣り上げる魚は同じ獲物が釣り上げられます。 しかし料理の下手なのはどの乗組員も一緒で、折角の新鮮な獲物も我々の口に合いません。自分で料理して食べるので1、2匹貰いに行くと、 「この場所は良く釣れるよ」 と言って釣道具を貸してくれます。漁獲物はめったに戴けませんでした。 貰いに行く日本人が悪いのか、彼らがケチだったのか、いまだ解りません。
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